川を染めとる/日次のフラフ

制作: 2018年
HD video, sound, 33分38秒

フラフとは、高知県東部で、男児誕生を祝うため、端午の節句に揚げる旗のことである。この時期、民家の庭には柱が立ち、桃太郎や七福神など縁起のよいモチーフとした鮮やかな旗がはためく。地域には、物部川土佐堰から流れる豊富な井水を利用してフラフをつくる染色工房が今も残っている。 私がこの土地に訪れたとき、地元の人々は物部川の思い出、とりわけ川の色について話してくれた。ダムを多くもつこの川は、時代、天候、そして地域に暮らす人間の記憶によって、さまざまな色彩として語られた。  この経験は、一枚の真っ白のフラフが工房を飛び出し、地元の人々の食事や労働、睡眠などの場で使われ、しだいに川の色に染まっていくというイメージを私にもたらした。映像の中で空高く揚げるフラフは、川と共に生きる人々の日常を讃えている。 

蜘蛛とeveryone

制作: 2018年
映像 20分30秒

展示会場となった野外炊事場の屋根裏には多くの蜘蛛が巣を張っていた。その巣に保存用インクで浸した切り文字「everyone」をかけ、その反応を見る。「everyone」は世界人権宣言の原文で繰り返される言葉である。展覧会場では、世界人権宣言のテキストの音読作品「発音のレッスンを受ける」「第27条を主語をかえて読む」を聞きながら、この作品を鑑賞する。

喉を行き来するもの(世界人権宣言をテキストとして)

制作: 2018年
展覧会: 共同体のジレンマ/旧門谷小学校(愛知)

素材: 声、ぶどうジュースの入ったグラス、テキスト(Universal Declaration of the Human Rights: UNITED NATIONS/和文:外務省)、ガラス、椅子

第二次世界大戦が終わり、1948年に世界人権宣言*が採択された。
その時、生き残っていた全てのひとたちは、その宣言が呼びかける共同体に含まれた。その後、生まれてくるすべてのひとは、時に、名付けられるよりも早く、その共同体に含まれていく。
「All human being」から始まる全30条の中で、「everyone」は何度も繰り返される。格式高く面白みはないその宣言は、その執拗さや厳格さが網の目をつくる。そこをすり抜けて、ふたたび悲劇が繰り返されないように、その網の目から誰かが落ちてしまわないように、本当にすべてのひとを「包括」することを目指し、「everyone」を重ねる。

ひとが声を発するとき、その声のままを絶対に聞けないのは自分自身であり、なにかを飲み込むときにも、それを自分は見届けることもできない。 そうした把握の空白が身体には多くある。

「everyone」がかつて一度も達成されたことがないことを知っている。それは、机上のものである、言葉だけのものであるとも言えるだろう。しかし、どんな言葉でもそれが喉を通るとき、その空白部分から、投げられる網があることについて、考えてみたいと思う。

*世界人権宣言
第二次大戦後、人類史上初めて全世界すべての人々の人権を守ることを公的に目指し、1948年の12月、国連総会で採択された宣言。
人権侵害を各国の国内問題として放置することが虐殺や戦争につながったという反省から、人権委員会で議論が重ねられ、起草された。
この宣言には法的強制力はないが、「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の規準として」多くの条約や各国の憲法などに、その精神が生かされることになる。
日本は、主権を回復したサンフランシスコ講和条約締結の際に、その前文で、世界人権宣言の実現に向けた努力を宣言している。

束ねと解けのあるところ

制作: 2018年
素材: 杖、草、布、綿紐、ハサミ、ワイヤーなど
会場: Gallery HAM (愛知)

個展「軸/杖/茎」初日にパフォーマンスを行い、インスタレーション作品を完成させた。


束ねと解け

制作: 2018年
会場: Gallery HAM(愛知)
撮影 廣瀬育子

草を切り、そこに隠れていた杖を見つけ、地面に敷いた布とともに再配置して、インスタレーションを完成させる。

立つものと横たわるもののあるところ

制作: すべて2018年
素材: 草、布、皮、サイアノタイプ、パネル、アクリルボックス

夏の絵/Summer Days

制作: 2018年

草、絵筆、ガラス瓶

ブーケ (発話と嚥下)

制作: 2018年

ヤマゴボウの枝、サイアノタイプ(紙、木材)、ぶどうの果軸、レードル、アルミパイプ、針金

「軸/杖/茎」のためのドローイング

制作: すべて2018年

4本の杖のためのドローイング
紙、木炭

束ねと解けのためのドローイング
紙、ペン、木炭、コンテ、アクリル絵具など

4本の杖のためのドローイング
紙、ペン、木炭、アクリル絵具

草叢に失くした杖のためのドローイング
紙、ペン、木炭、コンテ、アクリル絵具など

4本の杖のためのドローイング
紙、ペン、木炭、アクリル絵具

束ねと解けのためのドローイング
紙、ペン、木炭、コンテ、アクリル絵具など

束ねと解けのためのドローイング
紙、ペン、木炭、コンテ、アクリル絵具など

束ねと解けのためのドローイング
紙、ペン、木炭、コンテ、アクリル絵具など

束ねと解けのためのドローイング
紙、ペン、木炭

この建物の裏には二本の金木犀がある/There are two fragrant olive trees behind this building

制作: 2018年
カーテン、パステルなど

会場は取り壊しの決まった市庁舎。その裏手に二本の金木犀が生えており、展示中に最後のオレンジの花を咲かせていた。部屋の開け放たれた窓からは、花の香りが流れ、オレンジ色のパステルが床に立っている。